十一月、風花が散り、凩が吹きすさび、厳しい冬が始まる。
幾樽も色々の漬物を漬け、「むろ」に野菜を購いこみ、窓々にビニールで目貼りして冬に備える。



オホーツク名物流氷は一月中旬にその姿を現す。
沿岸の海水が急激な温度の低下によって、所々アイスクリーム状の氷水に変化し始める頃、すでに遠くシベリヤの奥深い湾で結氷していた流氷が、サハリン沿いに南下し、一夜の中に押し寄せて、見渡す限り氷の海と化するのだ。



さしも轟き渡っていた潮騒が、急に鳴りをひそめたことによって、私たちは海岸に出て見なくても、流氷が来たことを知る。



流氷が来て一段と「しばれ」がひどくなる。
窓ガラスに氷華が咲き、一夜消してあったストーブを焚いても、しばらく室内の冷えは去って行かない。物置では卵や野菜などこちこちに凍てるし、外に出れば鼻毛はもぞもぞ、頬は痛く涙さえ出て来る。




しかし北海道の冬は、そんなにつらいことばかりではない。
ストーブさえ勢いよくなれば室内は暖気が満ち、浴衣がけでビールなんて話も決して嘘ではないのだ。小屋から出したての、氷の混ざった漬物などを、丼一杯ざくざく噛ったり、かちこちに凍らした鮭の刺身(ルイベ)を口の中で溶かしながらの賞味はこたえられない。吹雪の音を聞きながらの暖かい団らん。戸外でのスキー、スケート。子供たちは野生的ながら素直に成長し、大人たちは人情深い社会を形成している。




サロマ湖に穴をあけて、網を張ったり釣ったりの氷下魚漁も面白い。
十分着込んだ漁師は、むしろ(筵)一枚を風除けに、湖の氷の上に坐りこんで、前日張って置いた網を曳く、蒼く濃い水の中から、次々と上がって来る魚の腹の白さは印象的だ。
網から外されて氷の上で二三度跳ねると、そのまま凍ってしまう。この魚をマキリ(小刀)で削りながら飲む酒のうまさよ。

「句集 流氷の町」より